マルコフ核がスケールされたブラウン運動に関連付けられている場合,すなわち,\[q = q_{B\epsilon} := (2\pi )^{-n/2}((t − s)\epsilon )^{-n/2} \exp (− |x− y|^2 / 2(t − s)\epsilon )\]であるとき,シュレーディンガー橋問題は\[\min_{\pi\in C(\mu_0,\mu_1)} \int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n} \pi (x, y) \log (\pi (x, y) / q_{B\epsilon} (0, x, 1, y)) \mathrm{d}x\mathrm{d}y\]のように簡略化される.
以下で,このように簡略化される理由を示す.
まず,シュレーディンガー橋問題は,与えられた始点と終点の確率分布を持つ確率過程の中で,相対エントロピーを最小化するものを求める問題である.相対エントロピーは,ある確率分布 $P$ が,別の確率分布 $Q$ と比べてどの程度異なるかを測る尺度として定義される.
この問題において,事前分布としてマルコフ過程 $Q$ が与えられる.シュレーディンガーのオリジナルの問題においては,$Q$ はウィーナー測度,つまりブラウン運動によって誘導されるパス空間上の測度のクラスである.
パス空間上の測度 $P$ は $Q$ に対して絶対連続であり,所定の周辺分布を持つもののうちから選択される.
相対エントロピーは以下のように定義される.\[D(P|Q) := \int_{C} \log (\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}Q}) \mathrm{d}P\]
ここで, $\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}Q}$ はラドン・ニコディム微分を表す.
パス空間 $C$ 上の測度 $P$ に対して,$P_{xy}$ は時刻 $t = {0, 1}$ においてそれぞれ値 $x$ と $y$ をとるパス上で $P$ を条件付けたものを表し,$P_{01}$ は時刻 $t = {0, 1}$ におけるパスの値に対する結合確率を表している.
以上から,測度の分解により,以下が成り立つ.\[D(P|Q) = D(P_{01}|Q_{01}) + \int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n} D(P_{xy}|Q_{xy})P_{01}(\mathrm{d}x\mathrm{d}y)\]
右辺の第2項は非負であり,各 $x$, $y$ に対して $P_{xy}$ が $Q_{xy}$ と同じとき最小値0をとる.
従って,指定された周辺分布と一致し,$D(P|Q)$ を最小化する確率法則 $P$ を特定するためのシュレーディンガー橋問題は,以下のように簡略化される.\[\inf_{P_{01}\in C(\rho_0,\rho_1)} \int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n} \log (\frac{\mathrm{d}P_{01}}{\mathrm{d}Q_{01}}) \mathrm{d}P_{01}\]
ここで,マルコフ核がスケールされたブラウン運動に関連付けられている場合,つまり,\[q = q_{B\epsilon} := (2\pi )^{-n/2}((t − s)\epsilon )^{-n/2} \exp (− |x− y|^2 / 2(t − s)\epsilon )\] であるとき,$Q_{01} = q_{B\epsilon} (0, x, 1, y)$ となる.
これを上記の簡略化されたシュレーディンガー橋問題に代入すると,以下の式が得られる.\[\inf_{P_{01}\in C(\rho_0,\rho_1)} \int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n} \log (\frac{\mathrm{d}P_{01}}{q_{B\epsilon} (0, x, 1, y)}) \mathrm{d}P_{01}\]
さらに,$\mathrm{d}P_{01} = \pi (x, y) \mathrm{d}x\mathrm{d}y$ と置くと,最終的に以下の式が得られる.\[\min_{\pi\in C(\mu_0,\mu_1)} \int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^n} \pi (x, y) \log (\pi (x, y) / q_{B\epsilon} (0, x, 1, y)) \mathrm{d}x\mathrm{d}y\]
Mathematics is the language with which God has written the universe.