summary:
SPARCの開発は,1984年にサン・マイクロシステムズ[Sun Microsystems]によって開始.当時,複雑な命令セットを持つCISC[Complex Instruction Set Computer]が主流であった.しかし,デビッド・パターソン[David A. Patterson]が提唱したRISCの概念が注目され始めていた.サン・マイクロシステムズは,このRISCの理念に基づき,自社のワークステーションやサーバー向けに新しいプロセッサアーキテクチャを開発することを決定.1987年,SPARC V7と呼ばれる最初のSPARCプロセッサを市場に投入.SPARC V7はSun-4シリーズのワークステーションに搭載された.
SPARCは小規模な組み込みシステムから大規模なエンタープライズサーバーまで幅広く適用可能な設計がなされており,特にマルチプロセッサ構成においても優れた性能を発揮する.
また,レジスタウィンドウ機構を採用している点も特徴的.従来のプロセッサでは関数呼び出しの際にスタックを使用するのに対し,SPARCではレジスタの一部をウィンドウのようにスライドさせながら使用することで,関数間のデータの受け渡しを効率化し,処理速度を向上させた.
さらに,64ビットアーキテクチャへの対応もSPARCの強みの一つ.1993年導入のSPARC V9では完全な64ビットアーキテクチャとして設計され,大容量メモリを活用した高性能な計算処理が可能となった.特にエンタープライズ向けサーバー用途においては,大規模データ処理や仮想化環境においてその恩恵が大きかった.
また,SPARCプロセッサは拡張命令セットを活用した高い並列処理能力を持つ.SPARC V9を基にしたUltraSPARC以降ではVIS[Visual Instruction Set]と呼ばれるSIMD命令[Single Instruction, Multiple Data]を導入し,マルチメディア処理や科学技術計算の性能を向上させた.
さらに,SPARC TシリーズやMシリーズでは,CMT技術[Chip Multithreading]を活用し,一つのコアで複数のスレッドを同時に実行できるようになった.CMT技術は,UltraSPARC T1を皮切りに,後継のT2,T3,T4,T5で採用.2010年,オラクル[Oracle]がサン・マイクロシステムズを買収.オラクルはCMT技術の開発を継続し,SPARCプロセッサの拡張を行う.特に,SPARC T4以降では,単一スレッド性能の向上を図るためにスーパースカラ実行ユニットを強化し,マルチスレッド処理とシングルスレッド処理のバランスを取る設計へと進化させた.
2015年のSPARC M7以降ではSilicon Secured Memoryという技術を搭載し,メモリのアクセス制御をハードウェアレベルで実施することにより,不正アクセスやバッファオーバーフロー攻撃を防ぐ仕組みが導入された.
このように,SPARCは拡張性,並列処理性能,64ビット対応,高いセキュリティ性といった特徴を備え,特に高性能計算やエンタープライズ向けサーバー市場において長年にわたって活用されてきた.
しかし,2017年にOracleがSPARCの新規開発終了を発表.クラウドインフラストラクチャとx86ベースのサーバーに注力する戦略転換を行った.これにより,M8プロセッサが最後のSPARCプロセッサとなった.そして,市場ではx86やArmアーキテクチャが主流となっていった.
また,IBMのPOWERアーキテクチャに依存せず自社技術を維持したかった富士通は,1990年代からサン・マイクロシステムズによりSPARCアーキテクチャをライセンス供与され,独自のSPARCプロセッサを開発してきた.2000年代にはSPARC64という独自のSPARC派生プロセッサを開発.サン・マイクロシステムズがオラクルに買収された後も富士通はSPARC64シリーズの開発を継続.しかし,UNIX市場自体が縮小し他ことにより,富士通はSPARCからArmベースのA64FXプロセッサへと開発をシフト.スーパーコンピュータ富岳においてはSPARCではなく,ArmベースのA64FXを採用.2022年には,SPARC M12シリーズの販売終了とx86およびArmベースへの移行を打ち出した.
Mathematics is the language with which God has written the universe.