NOTゲート

summary:

NOTゲート[NOT gat,inverter]は,論理回路における基本的なゲートの一つで,入力信号の論理状態を反転する機能を持つ.具体的には,入力が「1」のとき出力は「0」,入力が「0」のとき出力は「1」となる.

この動作から,NOTゲート論理反転ゲートとも呼ばれる.NOTゲートは1つの入力信号を受け取り,その信号の論理状態を反転した出力を生成する.論理的には,入力が「0」の場合は出力が「1」,入力が「1」の場合は出力が「0」となる.

NOTゲートを2つ接続すると,入力信号が反転し,その後再び反転されて元に戻る.このダブルインバートの動作が,状態を保持するための基盤となる.また,2つのNOTゲート交差接続することで,状態を記憶できる回路を作ることができる.つまり,NOTゲートの交差接続は,電源がある限り情報を保持できる[揮発性メモリ].これは,基本的な記憶回路として,SRラッチフリップフロップの基礎となっている.

NOTゲートの歴史

1930〜1940年代:リレー論理

1930〜1940年代にかけて,初期のデジタル回路ではリレー[電磁スイッチ]を用いて論理演算が実装されていた.NOTゲートはリレーの接点を利用し,「通電していないときON,通電するとOFF」という特性を活用して作られた.この方式のメリットは,シンプルな構造であり,動作原理が明確である点にあった.しかし,機械式であるため動作速度が遅く,ミリ秒[ms]単位の遅延が発生するほか,接点の摩耗による故障が避けられないというデメリットがあった.

1940〜1950年代:真空管論理

1940〜1950年代には,ENIAC[1946年]などの初期コンピュータにおいて,真空管を用いた論理回路が構築されるようになった.NOTゲートは,増幅器として用いられる三極管[トライオード]を使用して実現された.この方式の利点は,リレーと比較して動作速度が飛躍的に向上し,マイクロ秒[μs]単位での処理が可能になったことである.しかし,真空管は発熱が大きく,消費電力も非常に高いという問題を抱えていた.また,寿命が数千時間程度と短く,頻繁なメンテナンスが必要であった.

1950〜1960年代:トランジスタ論理

1950〜1960年代にかけて,トランジスタ[BJT: Bipolar Junction Transistor]の発明により,真空管に代わる論理回路が開発された.トランジスタを用いたNOTゲートは,トランジスタ1個と抵抗を用いることで実装が可能となった.この技術のメリットは,真空管と比較して低消費電力であり,耐久性も向上した点にある.また,動作速度もナノ秒[ns]単位まで向上し,より高速な処理が可能となった.しかし,初期のトランジスタ回路では,個々のトランジスタを手作業で配線する必要があり,回路設計が複雑であった.

この時代には,関連技術としていくつかの論理回路方式が登場した.1950年代には,抵抗-トランジスタ論理[RTL: Resistor-Transistor Logic]が開発され,NOTゲートを含む基本的な論理回路が構築された.1960年代には,ダイオード-トランジスタ論理[DTL: Diode-Transistor Logic]が登場し,ダイオードを活用して論理演算を効率化した.また,1964年にはトランジスタ-トランジスタ論理[TTL: Transistor-Transistor Logic]が登場し,高速化と小型化が進み,74シリーズICとして広く普及した.

1970年代以降:MOS技術とCMOS

1970年代以降,MOSFET[Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor]の登場により,デジタル回路の主流が変化した.この時期に開発されたCMOS[Complementary MOS]技術を用いたNOTゲートが一般的となった.CMOS技術の最大の特徴は,PMOSとNMOSを組み合わせることで,超低消費電力を実現した点である.この方式では,電流が流れるのはスイッチング時のみであり,待機時の電力消費がほぼゼロに近いため,省電力化が可能となった.また,MOSFET技術の進展により,ナノメートル[nm]単位の微細加工が可能となり,集積回路の高密度化が進んだ.当初は製造コストが高かったものの,技術の進歩によってコストは急速に低下し,CMOSは広く普及した.

1980年代以降:VLSI技術からFinFETへ

1980年代以降は,超大規模集積回路[VLSI: Very Large Scale Integration]技術が発展し,数百万から数十億個のトランジスタをIC内に集積することが可能となった.2010年代には,さらに進化した3Dトランジスタ技術であるFinFETが登場し,さらなる微細化と省電力化が実現された.

プロセッサとNOTゲート

CPUやGPUの内部にもNOTゲートは数多く存在する.これらのプロセッサでは,CMOS技術による論理ゲートが基本構成要素となっており,NOTゲートは論理反転を行うために不可欠な役割を果たしている.例えば,命令デコードや制御回路,演算ユニット[ALU]などの内部処理において,NOTゲートが広範に使用されている.さらに,最新のプロセッサでは,FinFET技術を採用することで電力効率を向上させつつ,トランジスタの微細化により高密度な集積が可能となっている.

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