summary:
その登場の背景には,Kubernetesの登場と普及に伴って,ステートフルなワークロード,特にRDBMSのようなデータ永続性を持つアプリケーションの取り扱いが課題として浮かび上がったという歴史的経緯がある.初期のKubernetesは基本的にステートレスなサービス[WebサーバやAPIゲートウェイなど]に適した設計であり,PostgreSQLのようにデータの整合性と可用性を重視するアプリケーションにとっては,永続ボリューム管理やフェイルオーバーの仕組みが未成熟であった.そのため,Kubernetesの思想に沿いつつも,ステートフルなアプリケーションを運用するためのパターンとしてOperatorパターンが登場し,2016年にCoreOSによって提唱された.
PostgreSQL Operatorは,このOperatorパターンを用いた代表的な事例の一つであり,特にZalando社による「Postgres Operator[通称：Zalando Operator]」や,Crunchy Data社によるPGO[PostgreSQL Operator],Red HatやEDB[EnterpriseDB]によるオープンソース実装などが開発・公開された.これらのOperatorはいずれも,PostgreSQLの高可用構成[たとえばStreaming Replication構成やPatroniを用いたクラスタ]をKubernetesネイティブな方法で構築・維持する能力を備えており,Infrastructure as Codeによる運用の自動化と,Kubernetesのスケジューリング機能との統合を実現している.
技術的には,PostgreSQL Operatorは通常CustomResourceDefinitions[CRDs]を使用してKubernetes APIを拡張し,PostgreSQLクラスタやインスタンスを表すカスタムリソースを定義する.これらのカスタムリソースに対する変更はOperatorのコントローラによって監視され,必要な調整アクションがKubernetes上で実行される.例えば,レプリカの数を増やす要求があった場合,Operatorは自動的に新しいPostgreSQLインスタンスをデプロイし,レプリケーション設定を構成し,データの同期を確認する一連のアクションを調整する.
また,多くのPostgreSQL Operatorは,クラウドプロバイダーの提供するストレージサービスと統合され,バックアップとリストア操作の自動化や,Point-in-Time Recovery[PITR]のような高度なデータ保護機能も提供している.最新のOperatorでは,PostgreSQLのメジャーバージョンアップグレードや,クラスタの動的なリソース調整[コンピュートリソースやストレージ容量の拡張]なども自動化されつつある.
セキュリティ面では,PostgreSQLの認証情報をKubernetesのSecretsとして管理し,TLS/SSL証明書の自動ローテーションなどの機能を組み込んだOperatorも存在する.さらに,監視とログ収集の観点では,PrometheusやGrafanaとの統合により,PostgreSQLのパフォーマンス指標やクラスタの健全性を継続的に監視する仕組みも提供されている.
このように,PostgreSQL Operatorは,クラウドネイティブなアーキテクチャの中で,伝統的なリレーショナルデータベースをいかにして自律的に運用可能なものとするかという問いに対する一つの回答であり,Kubernetesの進化と歩調を合わせて発展してきた技術である.
Mathematics is the language with which God has written the universe.