光パス

summary:

光パス[Optical Path]とは,光ファイバネットワーク上において,送信側の光送信装置から受信側の光受信装置まで,中継ノードを含むすべての物理的および論理的な経路が光信号の形式で確保される通信経路を指す.すなわち,光パスとは,端点間で電気信号への変換を伴わず,終始光信号のままで転送が行われる専用の論理チャネルである.これは,光レイヤにおける回線交換,に相当する概念であり,特定の波長を割り当てて構成される.

光パスの概念が登場した背景には,従来の電気信号ベースのパケット交換ネットワークにおいて,スイッチングやルーティング処理が転送遅延や帯域制限の原因となっていたという課題がある.1990年代後半から2000年代初頭にかけて,WDM[Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重]技術が実用化され,1本の光ファイバ上に複数の波長チャネルを同時に流すことが可能になった.これにより,それぞれの波長を別々のユーザーやトラフィックに割り当てることが可能となり,物理的な専用線に近い構成が論理的に実現できるようになった.

このような波長を利用した転送経路を光回線[lightpath]または光パスと呼ぶようになり,特にIP over WDMアーキテクチャの発展とともに,IPルータの直下に光パスを構築して,より低遅延かつ高帯域の通信を実現する方式が注目されるようになった.さらに,光ネットワークの柔軟性を高めるために,ROADM[Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer]やOXC[Optical Cross-Connect]といった光レイヤでのスイッチング機構が導入され,光パスの動的な設定や切り替えが可能となった.

技術的には,光パスは1つの波長または複数の波長[波長グループ],あるいは光ファイバ上のスロットにマッピングされ,各中継ノードでは電気信号への変換なしに,そのまま波長ルーティングが行われる.このような光信号ベースの経路制御は,全光ネットワーク[All-Optical Network]フォトニックネットワークとも呼ばれ,光電変換に伴う遅延やエネルギー消費を大幅に削減できる利点がある.加えて,SDN[Software-Defined Networking]技術やGMPLS[Generalized Multi-Protocol Label Switching]などの制御プレーン技術と組み合わせることで,光パスの動的確立,保守,障害時の再構成なども自動的に行えるようになってきた.

光パスを実現する上での課題としては,物理層での光信号の減衰や分散,クロストークなどの問題があり,長距離伝送においては光増幅器や分散補償装置などが必要となる.また,波長割り当ての最適化[RWA: Routing and Wavelength Assignment問題]も重要な技術課題である.

現代の光ネットワークにおいて,光パスは大規模データセンター間の高速通信や,通信キャリアのバックボーンネットワーク構築に不可欠な要素であり,低レイテンシ,高スループット,高可用性を求められるユースケースにおいて中心的な役割を果たしている.特に5Gやクラウドコンピューティングの普及に伴い,膨大なトラフィック需要を低コストで効率的に運ぶための基盤技術として重要性が増している.

将来的には,可変帯域や柔軟な波長割り当てを可能にするFlex-Grid WDM[フレキシブルグリッドWDM]や,SDN制御下の動的光パス再構成が普及することで,よりインテリジェントで適応的な光パス構築が可能となると考えられている.また,空間分割多重[SDM: Space Division Multiplexing]技術との組み合わせや,量子通信への応用も研究されており,次世代の光パス技術として期待されている.

Mathematics is the language with which God has written the universe.





















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